覚書

知られていない人や作品を紹介したいです。

竹中郁「へんな広告文」『マダムブランシュ』16昭和9・6・1

〈足風琴〉の詩人衣卷省三君は、なるほど足で風琴でもかなでられさうな何でもやればやつてのける藝術家である。
じつは私は詩集の名の〈足風琴〉しか知らんので廣告文など書く資格はないかもしれない。しかし、その書いた詩は見ずとも、一夜衣卷君と神戸のハイカラなバアを飲みあるいただけで、私は彼の體臭のやうな詩を見てとつた。彼がステツキをにぎる。コツプをつかむ。そこで、それらのものはもう生命を與へられて、衣卷流の運動に參加するのである。彼が醉つたまぎれに、うれしい悲しい顏をして、私にそれらのものを投げつけると私は脚と口とでそれらを受けとめるのである。衣卷君の詩はきつとそんな讀み方を必要とする種類のものであるらしい。嘗つて衣卷君は私の首筋へ接吻した。私は彼の太ももをうんとつねつた。まあ、そんな返報的な方法で讀んでもいいのかね。いいだらうね。マイ・デイア・セイゾウ君。