聖なる脱出
ひそやかに祈禱の血を焚いていた
ほの紅い煖炉の唇が吸いよせている 眩し
い仮睡の時間 降誕祭の訪れを待つ ソフア
の少女よ 眼ざめてはいけぬ 偽善に狎れた
マスクを外し この部屋の扉を十年ぶりに開
ける 私の気配に
この世の傷ましい肉をまとうていた
私の肩をたたく 白い壁の牧師の遺影 す
でに 踏みにじつた 薔薇のカードの日日
燭台を翳し ただ 闇のかなたの救いを説く
顫える婦人の眼鏡 玻璃窓に粉雪を誘い
いつか 忍びよつていた
虚空にむなしく揺れる神の手
私はふたたび教会の 枯れた枳殻の垣をと
びこえる 廃墟の墓地の十字架に肖た ま裸
かの葡萄の枝尖が指す 私の道が ああ 忽
然と続いていつた あのゴルゴダの丘より
むざんにも
ユダよ おくれてはならぬ
人見勇詩集『襤褸聖母』より