覚書

知られていない人や作品を紹介したいです。

2014-10-01から1ヶ月間の記事一覧

夜の流水

ひらひらと ちいさな聖霊に肖た翅ばたき が 涸れはてた運河より這い出る 僕の蓬髪 を濡らす 冬の太陽のかけらのように カナ リアのくちばしが 可憐にも堀り起す ぶざまな ダリアの球根 あざやかな 若い魔術の凌辱 いやに 犯した眼が ちかちかしすぎる がらん…

天の竪琴

――すでに この邦の太陽もひびわれている のであろうか ああ あんなに手招きしている 自殺した 友の白い額縁にめくるめく 誰もうたわない 灼けただれた砂の海に 喀きつくした葡萄 酒の壜がただよう 僕の胸には いまもなお 銹びついた神の銃弾がつき刺つている…

ぼくの世界も病んでいる

この頃 狹くるしい家のなかにまで燻る いやな地球の排泄物の臭気に ジリジリ馴ら されながら きまつていつも 黄昏になると 臥ているぼくの胸の洞穴には やさしく 刺繍糸の祈りが充ちてくる あれは爆傷でひきつつた 黒い天使の片えくぼであろうか ああ あなた…

遁走のうた

或る殺意をひめた ジユラルミンの波動が遠のいてゆく さみしい肋骨のアンテナに ひととき 鰯雲のさざなみがうちよせてくる ――ひたひたと 懶惰の脚を洗う 裂けた 地図の湖のほとり 自殺した友をおもう青林 檎の歯型に なおも 鉄路づたいに迫つてく る 銹びつ…

眼をつむる降誕祭

ひびわれた 手鏡の中のレールを 蒼い猫が横ぎつていつた仰向けになつた ぼくのベツドの橇を索いてゆく 水銀のような細い手キシキシ キシキシ 湖の氷面鏡が歪むたびに 石膏の片脚が近づいてくるああ こんなにも揺れ合う 血の提燈を贈つてくれたナザレの隕星も…

白昼夢

ゆるされた 光の涯をみつめながら 流木の罠の中に疾んでいるくらげは 今日も漂う重油に喘ぎあえぎ 浮標にさみしく語つている 丘の白百合の聖歌に送られて 船出のテープにもひらひらゆれる ――善意を信じるかなしみについてああ そんな ひとときも あかるく ぐ…

冬の夜のダイビング

ゆうべ ぼくは 疾む世界を脱けだし 凍える雲の飛込板佇つていたしきりに 血尿を放つ涸れたプールの底には 共同墓地の 白い十字架の影が刻まれて――いつか銹びついたまま胸につき刺さる弾丸を するするかすめては 堕ちてゆく 小さい落日のひかり重たげな空気の…

夜のシクラメン

雹が熱い瞼をたたいてゆくと ほのかに匂つてくるまだ青い心臓に肖た 傷む葉のかげから灰にまみれた翅をひらく 白い蝶の影が 遺された木琴をかなでながら消えてゆく 肋骨の夢の果て あんなに隧道の中に垂れている星の氷柱をつぎつぎ鳴らしてゆく 墓石の馬車の…

手鏡の風のうた

花瓶 いくたびか 喀きつくした 葡萄酒の壜の底に 眼ざめると けさも ひえびえと はるかに匂う 菊の骨に肖た腕よ 体温表 新しい水平線に漂う 喪のリボンにひかれながら また 氷嚢を吊す指が なまぐさい曲線を描いてゆく とある病院のタラツプへ 林檎 すでに犯…

鎮魂歌

朝焼音もなく まだ胸を覆う 銹びついた鉄の扉をあけて 一瞬 撃たれたままの 一羽の小鳩をつかみ出す 血の海の腕 流水ひととき 豪雨が去ると また 砂のベツドを脱け出し 波間に描く 傷む背髄の幻想 どこかに漂う 洗礼の衣を たしかに沈む 青い真珠を 墓地つぎ…

花氷

あんなに海の母が呼んでいたながれ星を いくたびか 摑み去る 銹びた起重機の影が白昼の夢の園から こつそり 灼けた砂のベツドにおりていつた氷塊にうつすらと捺された あの聖らかな手型を 救いのような氷のかけらをみるみる 溶かし去つてゆく 新しい「音楽の…

黒い花環についての記憶

いつからか 凍てつく港町の甃をあるいていた 銹びたた鎖をひきずつて 僕は 遺愛の讃美歌集をいだき かたい古本屋の戸を かたい古本屋の戸を あてどなく たたいては押した 更に 熱い釘をのむ証(あかし)のために とある 肉屋の冷蔵庫から 灼けた庖丁が躍り出…