花瓶
いくたびか 喀きつくした
葡萄酒の壜の底に
眼ざめると けさも
ひえびえと はるかに匂う
菊の骨に肖た腕よ
体温表
新しい水平線に漂う
喪のリボンにひかれながら
また 氷嚢を吊す指が
なまぐさい曲線を描いてゆく
とある病院のタラツプへ
林檎
すでに犯された 天の
竪琴の最後の絃のように
なおも 高く張りつめている
白い乳房よ 昏れてゆく
メスに逆らいながら
窓
あけはなつ 深夜の
ガラス戸をはしる 弾道の影に
悪い霧に濡れた痰壺に
ああ ナザレの星の穴かあ
あんなに骨の灰がふつてくる
人見勇詩集『襤褸聖母』より