覚書

知られていない人や作品を紹介したいです。

2014-01-01から1年間の記事一覧

谷崎精二「文藝時評」『早稲田文學』昭和10・11・1

衣卷省三氏の『黄昏學校』には獨身な女教師の生活が描き出されてゐる。暢達な筆致だが、彼の女の生活の上面を撫でゝゐるだけで、作者の神經は作品から遊離してゐる感じがする。現實への切り込み方が不足である。

井上幸次郎「文藝時評」昭和11・6・1『早稲田文學』

「仲人氣取」(衣卷省三氏)は、此の作者に珍しく調子が低い。それに冗漫である。一寸面白い人間も出て來るが……。

岡田三郎「文藝時評」『新潮』昭和

衣卷省三氏の「黄昏學校」も、私には見馴れた文學の世界である。私のやうな荒らくれた人間世界を小説でほじくりかへしてゐるやうな人間には、衣卷氏の小説はまるで裏がへしの世界のやうにも見られるが、押しをつよく言へば、かういふ小説の世界は、とうの昔…

編輯後記(近重憲太郎?)『翰林』s8・9・1 第一巻第二号

新秋の風に托して第二號を送る。小説欄は寂しいが、書く筈だつた秋澤三郎は愛妻の獨立展制作の監督、衣卷省三は東京灣ヨツト周航、近藤一郎は珍らしく社會見學のための新聞社づとめ、岩下明男はデリケエトなからだを暑氣にやられて等々の理由で原稿ができな…

福田清人「新刊批評 三册の小説」(『翰林』s8・9・1)

衣卷君の建設する特異な現實の城郭の掘はわれ等の越そえないものがある。君と室を共にする時、たまたま長身の男の扉を排して入来するや「あつ天井が下つた」と驚かせ、一杯の清水を汲まうと吸上ポンプを力をこめておすと、「そんなに力を入れると井戸もろと…