覚書

知られていない人や作品を紹介したいです。

冬の使徒

 まるで ジヤムにでもたかる蟻のように
銹びた鉄柵のなかで なつかしい骨の灰を掻
きまわしるづけている ものうげな僕の誕生
日に いみじくも 剪りたてのレモンの薫り
をただよわす たしかに あなたの乳房の血
にひめられていた あの雪渓の肌をふきおろ
す風が 青くつめたく つかのま 死の光り
を洩らす
あれは 天の手袋のささやき

 からくも 熱い散弾を浴びながら ひとひ
らの銀杏の落葉となり 落丁した書物ばかり
の季節を抜け出たはずの 僕の叡智の尖端に
 またしても戦きはじめている 銃口――

ごらん

 傾く丘の裸木の祈りを縫い 白い冬薔薇の
とげをふくむ 麺麭のかけらを漁りつづける
 小鳥たちのふるまい ああ あきらかすぎ
る とある植民地に肖た港町のたそがれ 凍
りついた世界の葬送の譜がながれてくる ひ
とけない音楽堂の ひとつひとつの木椅子の
背後に 今日もむなしく澄んでいるような

あの瞳を狙つているのは 誰だ

人見勇詩集『襤褸聖母』より