覚書

知られていない人や作品を紹介したいです。

眼をつむる降誕祭

ひびわれた
手鏡の中のレールを
蒼い猫が横ぎつていつた

仰向けになつた
ぼくのベツドの橇を索いてゆく
水銀のような細い手

キシキシ キシキシ
湖の氷面鏡が歪むたびに
石膏の片脚が近づいてくる

ああ
こんなにも揺れ合う
血の提燈を贈つてくれた

ナザレの隕星も凍るような
夜の天涯に佇ちつくす
老いた受難者よ

人見勇詩集『襤褸聖母』より