覚書

知られていない人や作品を紹介したいです。

冬の夜のダイビング

ゆうべ ぼくは
疾む世界を脱けだし
凍える雲の飛込板佇つていた

しきりに 血尿を放つ

涸れたプールの底には
共同墓地の
白い十字架の影が刻まれて――

いつか銹びついたまま

胸につき刺さる弾丸を
するするかすめては
堕ちてゆく 小さい落日のひかり

重たげな空気の翅

とある 屍室の鍵穴を訪う
殉教徒のまなざしに肖た
水仙の祈りの手よ
ああ

遠い 雪の荒野に
なおも昏れのこつている
犯したぼくの手よ

神の銃眼をまさぐりながら

人見勇詩集『襤褸聖母』より