覚書

知られていない人や作品を紹介したいです。

傾く木椅子

 たとえ よしたとえ僕の死の計算に 枳殻
のとげの露ほどの懐疑を つき刺したとして
も 菊の骨に肖た あなたの手は 屍室の扉
に ふたたび 触れてはならぬ

 むしろ あの鍵穴に澄む 神の瞳を抉る
かえり血にまみれながら 崩れかけた鐘樓を
仰ぎ いつも 殆んど真暗な裏梯子に演じる
 謙譲な美徳のサーカスを 嗤い給え

 ひつそり 雨に濡れている墓地を脱け出た
僕は とある坂の中途に佇ちつくし 脚下の
瓦礫の街の広場に 渇いた愛のコンパスで
永遠の噴水の設計を試みていた

 むなしく 白い額縁だけの夢のなかで 不
在の詩人を待ち焦がれながら ああ 深夜の
喪のリボンをかがやかす いつたい この光
は何処からさしてくるのか

人見勇詩集『襤褸聖母』より