覚書

知られていない人や作品を紹介したいです。

最後の晩餐   みずからの生命を断ちし若き画徒扇谷宏一に

私の背後で
閂の引かれる音を聴く
渇いた神々のしぐさ
獣くさい匂いを放つ 栗の花を咥え
死の額縁よりの 落下を待ちかまえる
灰色の光の罠

私は とある
星の蒼い瀑布の沿つて 駈けぬく
病んだ犬のように
燃える戎衣をまとう男のように
時折
清冽な流れに 魂をたくしては
かざす 生きた炬火

孤りの世界の 緩慢な破壊にこたえる
葬送の曲すら
むしろ いまは快い醉魔
がくり がくり
ひややかな肉体のように 揺れうごく
真夜の市街に辿りついた
私の顎を するどく突き上げる

ひややかに天を指している

あの古びた十字架を
永劫に 讃えねばならぬのか

おお ピエトロ・バンデイネルリよ

*ユダのモデル男をみつめていた、ダ=ヴインチは思わず畫筆を落とした。
 その乞食こそ、數年前キリストのモデルとなつたピエトロ・バンデイネ
ルリその人であり、聖歌隊歌手のなれの果てであつた。

人見勇詩集『襤褸聖母』より