夜の流水
ひらひらと ちいさな聖霊に肖た翅ばたき
が 涸れはてた運河より這い出る 僕の蓬髪
を濡らす 冬の太陽のかけらのように カナ
リアのくちばしが 可憐にも堀り起す
ぶざまな ダリアの球根
あざやかな 若い魔術の凌辱
いやに 犯した眼が ちかちかしすぎる
がらん洞の教会の疊に遺していつた 水仙
の柩の鍵 不覚のなみだで しろがねの冴え
を ついに踏みにじつた
あざやかな 祈禱書の灰のことば
ぶざまな 十字架の脚ぶみ
しばらく 滅びた市街をふりかえり この
邦の道標に凭りかかる 僕の擲げつけた 白
い手袋をぬいで「未完成」を奏でつづける
あのピアノの鍵盤にふれているような
天の指よ 僕の行く手をさし示せ
人見勇詩集『襤褸聖母』より