ぼくの世界も病んでいる
この頃 狹くるしい家のなかにまで燻る
いやな地球の排泄物の臭気に ジリジリ馴ら
されながら きまつていつも 黄昏になると
臥ているぼくの胸の洞穴には やさしく
刺繍糸の祈りが充ちてくる
あれは爆傷でひきつつた
黒い天使の片えくぼであろうか
ああ あなたのたべもののように
裁きの空からは 信じられないほど
うつくしい骨の灰が降つてくる
その頃 とある廃苑の涸れた噴水のほとり
に ぼくの愛はいつもと同じカーヴを描いて
ゆく うつつともなく やがて あの眩暈に
も肖た饗宴の果てに 一茎のグラジオラスの告
白を 風はしみじみと聞いていた
あわれ 死の螢光燈にひたりながら
人見勇詩集『襤褸聖母』より