2014-10-23 夜のシクラメン 雹が熱い瞼をたたいてゆくと ほのかに匂つてくるまだ青い心臓に肖た 傷む葉のかげから灰にまみれた翅をひらく 白い蝶の影が 遺された木琴をかなでながら消えてゆく 肋骨の夢の果て あんなに隧道の中に垂れている星の氷柱をつぎつぎ鳴らしてゆく 墓石の馬車の鞭よああ 今宵も小さな肖像画を背にしたまま 佇ちつくす 懺悔の足もとで昨日の剃刀をといでいる 夜の断崖の風よシクラメンの あたらしい蕾にふれながら人見勇詩集『襤褸聖母』より