朝焼
音もなく まだ胸を覆う
銹びついた鉄の扉をあけて
一瞬 撃たれたままの
一羽の小鳩をつかみ出す
血の海の腕
流水
ひととき 豪雨が去ると
また 砂のベツドを脱け出し
波間に描く 傷む背髄の幻想
どこかに漂う 洗礼の衣を
たしかに沈む 青い真珠を
墓地
つぎつぎ 垣薔薇のとげが放つ
しやぼん玉の中に息をこらす
あの傾く世界の瞳が
ひとつは 白い骨にふれて
ひとつは 白い雲にふれて
灯
雪も星も すでに消えはてた
運河の底に こぼれ墜ちてくる
裂けた 天の蝶の留め針が
なおも 犯した指のように
刺す 夜の水母を
人見勇詩集『襤褸聖母』より