覚書

知られていない人や作品を紹介したいです。

花氷

あんなに海の母が呼んでいた

ながれ星を いくたびか
摑み去る 銹びた起重機の影が

白昼の夢の園から こつそり
灼けた砂のベツドにおりていつた

氷塊にうつすらと捺された
あの聖らかな手型を
救いのような氷のかけらを

みるみる 溶かし去つてゆく
新しい「音楽の時」の背後から

したたるダリアの花びらの血

迸る夜の水
老いた杖が遺していつた
恩寵かとおもう

今宵もはげしく咳き込むと
割れた土管のようになつてゆく
芥くさい寝相の眼が
いつからか 夢みている

あのぼろぼろな
青春の地図を覆う
枯木の罠をやつと脱れた
月が とある公園に照らし出す

凍える愛と死の鎖を
薔薇色の噴水塔にからませながら
ぼくは 絶えず ぼくの
ぼくの真実を蝕む祈りのように
胸の奥から一途に噴きあげていた

どすぐろい永遠の血を
よるべない魂のうたを

人見勇詩集『襤褸聖母』より